SFのはなし

SFのはなし

夏は個人的にSFの季節だと思ってます。

学生の頃、暇を持て余してよく図書館に行ってました。

雑誌も置いてあるとこだったのでSFマガジンやユリイカをよく読んでいました。
(ユリイカは、SF雑誌ではありません。)

エアコンの効いた部屋でSF小説を紐解くのは、ささやかな幸福。好きなSF小説のはなし。

地球の長い午後

ブライアン・W・オールディス作

地球の自転が止まった遠未来。太陽は膨張しその寿命も尽きようとしていた。

自転が止まったことで昼と夜が完全に別れてしまい、日があたる半面は植物が大繁盛し人類の末裔は、矮小化し”凶暴な植物”や昆虫に怯えながら暮らしています。

この小説にシンボリックに登場する”ツナワタリ”と呼ばれる巨大な植物。

蔦を月に伸ばし星間を往き来するのです。

この壮大なビジュアルこそSFの醍醐味ですね。他にも”ハネンボウ” “トビエイ” “ヒカゲワナ” “アシダカ” など凶暴な植物たちが登場します。

名前から植物のキャラクターがわかりやすくなっていて想像力を掻き立てられます。

訳者の方は、大変そうだけど意外と直訳だったりして。

主人公は村から追放された人間の男の子グレン。この世界の人間は、小さく無力で馬鹿な生き物です。

グレンは、知性をもつアミガサダケに寄生され考える力と知識を手に入れます。

アミガサダケとの共生にもとれますが、実質支配下にあります。この小説を冒険活劇として読むとしんどくなるので注意してください。(実際しんどくなりました。)

この小説で描かれる人類は、感情移入できるフックになりそうですが現代人のヒューマニズムからは、はずれています。

無個性でしたたかな植物たちの対比で知性にすがる生き物たちは、滅びゆくものとして描かれているのでしょう。

ベンガルボダイジュに覆い尽くされた世界。

” Hot  House”(温室)と化した地球の圧倒的なビジュアルに飲み込まれる。そんな小説です。読んでみてほしい。

横浜駅SF

柞刈湯葉 作

増殖してゆく横浜駅に日本列島が覆われた未来の話。この小説では、植物や昆虫ではなくテクノロジーに人類は脅かされます。

冒頭の富士山の峰がエスカレーターに覆われていくところで吹き出してしまった。

所謂ディストピアものなんですけどアイデアが抜群に面白い。昨今の鉄道ブームの影響もあるんでしょうね。

実際横浜駅は、増改築を繰り返していて作者はそこから着想したんですね。

日本経済を支えた鉄道網は、たしかに日本列島の血管や神経のようでSFのガジェットとしては、もってこいですが実際モチーフとされたのはこの作品が初めてなのでは。

本州を覆い尽くした横浜駅。IDを持たない者は、”エキナカ” には入れず海岸に残された僅かな土地で生活しています。

主人公 三島ヒロト”青春18きっぷ”を手に入れ”エキナカ”の進入に成功します。

エキナカの住人たちは、脳に埋め込まれた”Suika”によって管理されています。

主人公がアナログな切符で駅内に入れるのが面白いですね。冒険が管理されない若者の好奇心からはじまるのは、いつの世も同じ。

それが創造なのか破壊なのかは、当人には関係ありません。とにかく見たい知りたい、それだけ。

エキナカの内部の描写は、多層構造物が好きな人は好きなはず。表紙のイラストも魅力的です。

中盤からは、JR北日本、JR福岡と横浜駅の攻防、工作員の暗躍(海峡が辛うじて横浜駅の増殖を食い止めています)が描かれ物語の収束に舵が振られます。

作者 柞刈湯葉さん。生物学の教授を務められていたそうで、学会などでJRを利用して移動することが多かったと思います。

移動の最中、目にする光景を生物学者の視点で見ておられたのかもしれません。

私事ですが、以前上越新幹線に乗る機会がありまして、その時見た東京駅の混雑や車窓から見た巨大な高圧電線に目を奪われました。

現代がすでにSF的?で小説より事実のほうが面白かったり、怖かったりします。

あとこの小説がネット小説なのも現代的かつSF的ですよね。

シェルブリット

幾原邦彦 永野護 作

小説として発表されましたが、設定に永野先生が参加されてて、各章の最後にイラストが掲載されています。

人類が三つの種に分かれた未来。

ジーンライナー
ジーンメジャー
ジーンマイナー

ジーンメジャーは、所謂新人類。性差は、なく頭脳、身体とも卓越し、容姿も美しい。

ジーンマイナーは、お察しのとおり、旧人類。僕たちのこと。

ジーンライナーは進化のはて宇宙船になった超人類。どのような経過を経てそうなったかは、言及されず、謎に満ちた存在。

ジーンライナーたちは、クリッパーレースと呼ばれる商業的な目的のレースをします。

ジーンライナーの内部では、メジャー、マイナーが勤務し一緒に宇宙を旅します。

中でもシェルドライバーと呼ばれる者は、航路の索敵や、ライバルのジーンライナーとの戦闘を任務とします。

この索敵行為は、シェルと呼ばれるロボットで行われ、シェルブリットと呼ばれます。

シェルドライバーは、身体能力の秀でたジーンメジャーが務めます。

主人公は、シェルドライバーのオルスブレイク。

シェルのデザインは、永野デザインの中でも一二を争う出来、個人的には、ブレンパワードか、こいつですね。

件のジーンライナー。主人公たちが乗っているのは、ローヌバルトと呼ばれていて船なので女性として扱われます。

彼女たちの航宙レースには、なにか他の目的もありそうですね。

主人公のガールフレンド デルビーの1日の食事もイラストで丁寧に紹介されていてサービス満点。読んでみてほしい。

………

今現在読んでるのは、中国SFアンソロジー

“折りたたみ北京”です。 中国SF人気ですね。

編者が序文でも言及されていますが”これが中国SF”といった決まりはありません。

しかし舞台が中国だったり登場人物が中国人なのは、新しい刺激に感じました。

まだ読了してないので感想は次回。

まとめ

アミガサダケほんとムカつく。