湯浅政明監督のこと

湯浅政明監督のこと

湯浅政明監督最新作、犬王観てきました。

湯浅作品やSFの話。

夜は短し歩けよ乙女

最初にお名前を拝見したのは”夜は短し歩けよ乙女”のスタッフロールでした。原作は森見登美彦の小説。ロングセラーで書店ではよく平積みでみかけます。

原作より先にアニメを観ました。何年か前に夜中にテレビでやってて特に期待せず観ていたらあれよあれよと引き込まれました。

京都 先斗町を舞台にした先輩と黒髪の乙女の二人の語り口で語られるファンタジー。

アニメは原作の表紙のイラストのイメージ(中村佑介)が引き継がれています。

アイコニックなキャラクターと異世界として描かれた京都の街が美しい。

黒髪の乙女はウワバミの美少女。彼女の行動原理は好奇心。本人は無自覚で物語を牽引するパイドパイパー。片思いの先輩は騒動に巻き込まれていきます。

樋口先輩や詭弁論部で古き良き?大学の風俗が描かれています。今のシャレオツなキャンパスでは絶滅危惧種。

これも京都のロケーションと相まってファンタジーとして昇華するのです。

李白との飲み比べ。狡猾な老フィクサーと美少女のスリリングな対決。

夢野久作の小説の主人公たちを思い出させます。”白髪小僧”の主人公や”犬神博士”のチイ少年の行動力や強運が黒髪の乙女に重なります。

童子の姿を借りた神様。黒髪の乙女も性差を超えた存在で片思いの先輩や個性的な登場人物たちも振り回されます。

湯浅監督による映像化は原作と良好な関係を築いていると思います。

時代劇とアニメーション

犬王は室町時代を背景にした作品。アニメの時代劇は最近だと”どろろ”や”平家物語”があります。

黒澤映画は多くの映像作家に影響を与えています。その魅力のひとつはセットや背景にあります。

廃墟と化し黒々とそびえ立つ巨大な羅生門。モノクロで撮影されたセットがひたすら美しい。

盗賊(三船敏郎)が侍夫婦を襲うシーンは逆に昼間の明るさが強調され”藪の中”の木漏れ日がモノクロでさらに強調。

ジョージ・ルーカスやタランティーノにも影響を与えています。もののけ姫も最初観たときに黒澤明っぽい印象を受けました。

みなさんやりたいんですよね。

北野武監督の座頭市は椿三十郎リスペクトですがミュージカル仕立てなのは犬王のコンセプトと似ているし楽しかった。

ミュージカルでもある犬王。予告編から期待が高まります。女王蜂のアヴちゃんと森山未來のキャスティングは間違いないでしょう。

ぼつぼつレビューがあがっていますが公開直後なので感想はほとぼりが冷めてからにします。一つ言えるのはアニメやロックが好きな人は必ず観に行きましょう。

湯浅政明監督

エヴァが完結してジブリの御大が引退したりしなかったりですがネットやらなんやらで毎日新しいアニメを観ることができます。

ちょっと前の作品のリブートもあっていい事ばかりですがここ10年の間の倫理観や環境の変化が作品に影響を与える場合があってノイズに感じることもあります。

DEVILMAN CLYBABYは未見。予告編とか見る限り大胆なアレンジとアニメーションとしての動きの面白さが湯浅監督らしい。

デビルマンは飯田馬之助監督のOVAが原作に忠実なホラーだったけどシレーヌ編で終わったのが心残り。

命乞いするジンメンの甲羅をはがすデビルマン。鬼です。

今だとアウトな描写も多い。今風にアレンジされた明や了もカッコいいけど原作に忠実なデビルマンのアニメも観てみたいです。

森見登美彦原作の四畳半神話大系は新作が公開されるみたいです。テレビシリーズは湯浅監督ですが今回は違うみたいですね。

森見登美彦の”京都ファンタジー”のマナーは発明です。ヨーロッパ企画の上田誠がシリーズ構成。

あとアジカンですよね。アジカンのアルバムのアートワークも中村佑介さんでした。和モダンのデザインは小梅ちゃんの林静一や小村雪岱、古くは竹下夢二の正当な系譜。

アジカンのピシッとしたサウンドと京都の箱庭的な舞台、そして四畳半が異世界へ誘う装置なのです。

2000年代中頃の万城目ブームとも無関係ではないでしょう。ファンタジーの舞台がこの頃なぜか近畿地方に集中。

犬王も京都が舞台で(犬王の原作は古川日出男)森見作品とは直接関係ないけど湯浅監督の作品体系の起源としてみても面白いのではないでしょうか。

ファンタジーとロケーション

古典SFの舞台が西洋世界(イギリスかアメリカ)であるのに対し近代SFが中国人作家の台頭やサイバーパンク作品などでアジアが舞台に、さらにフォーカスが絞られて地方都市が舞台に。

これは世界観のディテールを一から構築するのではなく実在するリアルをまるごと持ってくることで等価としています。

京都を舞台にしたファンタジーであれば具体的な地名や風土、歴史がそれで地方に住む人が比較的馴染みのある古都を舞台にすることで読み物として読みやすくかつストレンジな印象も与えています。

朝ドラでは地方を舞台にしたものは多いですが(北海道 関西 沖縄のヘビロテ)SFやファンタジーで地方を舞台にしたものは以外と少なかったと思う。

聖地巡礼なんて言葉も流行ってますがこれからのファンタジーはどこを舞台にするかが重要になっています。

いつか自分の住んでるクソ退屈な町がファンタジーの舞台になるなんてこともあるかもしれないのです。

湯浅作品はまだ未見のものも多く勉強中。この記事の森見登美彦作品の考察も半分勘で書いてます。

犬王は個人的に好きな作品でしたがこの作品を好きって言わないといけないまわりの空気もあるような気もします。

著名なレビュワーの意見を参考にしてもいいし原作読んでから観に行ってもいい。ただこの映画の美しい映像をまずは何も考えずに思い切り堪能して欲しい。

まとめ

アヴちゃんは犬王そのもの。