金田一耕助の話

金田一耕助の話

名探偵と聞いて誰を思い出しますか?

オカルトブームと角川映画。
昭和に一人のヒーローが誕生します。

(俳優の敬称は割愛。ネタバレ含。)

金田一耕助

横溝正史のミステリー小説に登場する探偵。

ボサボサ頭にチューリップ帽、羽織袴に下駄。市川崑監督の犬神家の一族で金田一耕助のイメージは、決定づけられます。

それ以前にも映像作品があり、高倉健も演じていました。そこではスーツにネクタイの洋装。

他にも沢山の役者さんが演じられていますが
やっぱりこの人、

石坂浩二の金田一耕助が一番。

これに異論を唱える人はいないのではないでしょうか。

犬神家の一族

何回観ても面白い映画です。その魅力はまずキャスティング。

石坂浩二扮する金田一耕助。頼りない風来坊といった雰囲気。事件を解決する探偵ですがあくまでも第三者。

正義感や情熱がないわけではありませんが、金田一自体は、空っぽな存在。陰惨な殺人事件を俯瞰からフォーカスするだけの映画の仕掛け。

この構造がこの映画では大事で監督の意図的な演出だったそうです。

市川崑監督のビルマの竪琴(カラーの方)で水島上等兵と他の隊員が別れたあと、帰国する船のなかで小林上等兵役、渡辺篤史のモノローグが流れます。

他の隊員にくらべ少しドライな印象で語りかけてきます。

この演出も犬神家の一族の金田一耕助と同じ役割を持っていて、冷静な目線で分析することで覆ることのない悲劇や別れが強調されます。(“帰れない”と繰り返す鸚鵡の演技?に涙が出ます。)

主人公なのに無力、物語のパースペクティブそのもののようなヒーロー。

飄々とした雰囲気のある石坂浩二のキャスティングはドンピシャ。

透明なはずの主人公に人間臭さを感じるのは、金田一耕助の周りにあつまる人たちにあるようです。

はる

陰惨な殺人事件の中、癒されるのは、金田一が泊まる宿の女中。坂口良子演じる”はる”。

事件には、全く関与しませんが、この映画でとても重要な役です。(私見)

当時オカルトブームがありました。ゴアな表現を含む怖い映画。エクソシストやゾンビ。大雑把に言うとホラー映画のこと。

殺人のシーンが派手な血飛沫や特殊メイクで再現されています。

この映画のアイコンにもなった、湖に足だけ突き出た死体や、スケキヨのラバーマスク。

こんな映画女の子が見ちゃいけない!

ホラー映画の演出で”来るぞ 来るぞ”と思わせてタイミングを外しドキッとさせるシーンがあります。

観客はその緩急に振り回されますが、坂口良子扮する、はるが登場するシーンは、安全地帯なのです。

ほっとするシーンで息つぎができるんですね。名探偵は里芋の煮物を食べながら犬神家の家系図を前に長考。

はる      何がおいしかった?

金田一   生卵。(うわの空で)

二人とも天使です。

リメイク版のはる役 深田恭子もキュートでした。

野々宮珠世

犬神佐兵衞の恩人、野々宮大弐の孫娘。

女中はるの健康的な色気とは真逆。
島田陽子演じる薄幸で妖艶なイメージ。

佐兵衛の遺言状に自分の名前が挙がり遺産相続の最重要人物となります。

珠世の存在は、本人無自覚ですが女王の佇まい。獲物を待つ蜘蛛や食虫植物を連想させます。

彼女自身は、善良な人間なのにその魅力に群がる男たちは、1人を除き必ず殺されます。

怖い。殺人装置の罠として無力、無自覚、そして彼女のボディガードとしての猿蔵でさえ善人なのです。

猿蔵がでてきましたね。野性味溢れる外見と人相でミスリードされますが心優しき珠世のナイト。

彼の一途な忠誠心。ひとえに珠世の優しさにかしずくのは男の美学。

どうなんでしょうか?犬神松子は、どこまでコントロールできてたんでしょう?

愛がやがて憎悪に変わり戦争で交わることのなかった運命が結びつく。

因縁、呪い、祟り、そういったものがある日突然平凡な人生にふりかかる。

探偵は、絡みついた人生の糸を丁寧にほどき善良な人たちを悪意から解放します。

珠世や猿蔵もその1人。別れも告げず逃げるように去っていく金田一に猿蔵は、こう言います。

あの人のこと忘れられない。

風来坊の名探偵は、爽やかな余韻を残して風のように去っていくのでした。

他にも、「よしわかった!」(わかってない)の橘署長役、加藤武。宿屋の主人、三木のり平、神主の大滝秀治。愛すべきバイプレイヤーたちです。

愛という憎悪

犬神松子役、高峰三枝子。すげえ迫力です。

何回も観てわかってるのに、まんまと騙されます。

多くの人物が登場するので名探偵も家系図を書いて整理しています。

遺産相続の話なので三姉妹はお互いいがみ合ってますが、あまり重要ではないです。

映画中盤以降で犯人は、松子、スケキヨ、静馬の3人に絞られます。

騙されてしまうのは、スケキヨを名乗る青沼静馬の存在。

顔は仮面で隠され、素顔はケロイドで無残な姿。本人かどうか疑われますが、まんまとスケキヨ本人と入れ替わり、手形の試験をパスします。

スケキヨと静馬の関係と思惑がまだ序盤ではわからず、2人の仮面の男の登場で、松子は最初から真っ黒なのにあっさり騙されてしまう。

松子に琴を教える盲目の先生役、岸田今日子が個人的に凄いなと思いました。

登場シーンはものの数十秒。盲人ゆえの研ぎ澄まされた感覚で松子の異変に気付き、探偵に重要なアドバイスをおくります。

数十秒の演技ですがこの人物の生きてきた人生さえ感じさせる凄みのある怖い演技です。

リメイクでは前作で三女、梅子役の草笛光子が演じてますが、これも素晴らしい演技でした。

実際に重ねてきた年齢と役者人生からこの難しい役を前作にも出ていた役者が演じ切っている姿に感動しました。

市川崑

エヴァンゲリオンの明朝体のタイトルバック。市川崑リスペクトのレイアウト。

多くの映像作家に影響を与えたとかなんとか。カット割りも独特。わかりやすいとこでは、木枯し紋次郎のOP。

リアルタイムの映像よりタイミングが早かったり、時系列が変わったり、映画独自のテンポを作っています。

犬神家の一族でもこの手法は効果的に使われています。ラストの犯人当てのシーンで演者がセリフを言い終わる前にカットが変わったり、佐兵衛の写真がサブリミナルみたいな感じで差し込まれたりします。

そもそもこのオッチャンの遺言状のせいで沢山の人が死にました。まるで悪魔の断末魔の姿のようでめちゃくちゃ怖い。

三國連太郎が演じています。

テーマ曲も印象的でしたね。作曲はルパン三世の大野雄二さんでした。この音は、チェンバロかな?松子の琴を連想させる悲しい旋律です。

その他の横溝作品

市川崑監督のものは、シリーズ化。横溝正史ブームになります。次作、悪魔の手毬唄は最高傑作の誉れ高い作品です。

八つ墓村は、野村芳太郎監督。個人的には生涯一位二位を争うトラウマ映画です。

これは、現代劇になっていることと渥美清演じる金田一像に評価が分かれるようです。

実は犬神家の一族より先に企画が立ち上がっていたそうです。上映が先になってたら金田一耕助のイメージも変わってたかも。

横溝正史も渥美清の金田一耕助を気に入られていたそうです。なんかで読んだ。

ラストで焼失する多治見家は、一千万もかけて作られた実際の家屋。金かけてます。

八つ墓明神謂れの村人たちによる落人惨殺のシーン。ゴアの極み。多治見要蔵の32人殺しのシーンもこわ杉DEATH!

金田一耕助の冒険 大林宣彦監督。珍作といったら巨匠に失礼。ただテレビ放映で一回観ただけなので語る資格ナシ。ごめんなさい。金田一耕助役はテレビシリーズでお馴染みの古谷一行。

真珠郎は由利倫太郎シリーズなんですがドラマでは金田一耕助に変更。美少年が蛍を食べるシーンが怖い

悪霊島 横溝正史の遺作。篠田正浩監督。”鵺の鳴く夜は恐ろしい”のキャッチコピー。

市川崑のテイストを取り入れていますが、挿入歌にビートルズのレットイットビーが使われていて面白い雰囲気が出ています。

古尾谷雅人演じるヒッピーが父親を探す伏線はうやむやなんですが、(原作では等々力警部が父親だったっけ?)原作者の死去や当時のジョンレノン暗殺の時代背景もあって一つの時代の終わりを象徴するような不思議な魅力を放つ映画になっています。

金田一耕助は鹿賀丈史が演じていました。

雑踏の中に消えていくラストシーンが好きですね。

オカルトの系譜

悪霊島以降金田一耕助シリーズは一旦途絶えますがオカルト映画は、いくつか作られました。

人間の証明もオカルトに入るでしょうか?

この子の七つのお祝いにもタイトルだけでガクブル。岸田今日子こわっ。

湯殿山麓呪い村も怖かった。

名探偵 金田一耕助の魅力について語ってみましたが結局、犬神家の一族の話になってしまいました。

横溝作品は、今でも新作が作られていますが市川崑監督の作品とどうしても比べてしまいます。

そこで提案。自分が魅力に感じでいたのは、石坂浩二さんの金田一耕助像とヒロインや脇役の女優さんたち。

思い切って金田一耕助を女探偵にしてすこし恋愛要素も盛り込んでみたらどうだろうか?助手なんかもいてバディものにしても面白いかも。

堤幸彦監督なんてどうでしょうか?女探偵は誰がいいかなあ?水原希子とかは?ライダースジャケットに破れたストッキングの名探偵見たくないですか?

まとめ

岩下志麻も怖ええよ。