ドクタースリープの話

映画ドクタースリープ観ました(BDで)。原作の感想や他のキング作品についての雑記。
(ネタバレあり注意)
ドクタースリープ
シャイニングの続編。ダニーのその後が描かれます。前作同様の幽霊譚かと思っていたら裏切られました。(いい意味で)
原作を読む前は成人したダン・トランス(ダニー)が過去のオーバールックホテルの忌まわしい記憶から決別するために焼失したホテル跡地に向かい悪夢を追体験する…そんな物語を想像していました。
映画の方は、キューブリックの続編とうい形なので過去の映像と合わせてそんな趣きも多少あります。(映画ではホテルは焼失していないようです)
冒頭ではオーバールックホテルの怪異から間もない母親との生活や(雪山を嫌いフロリダへ移り住んでいます)ハローラン氏とのその後が描かれ現代へ。
実際の年数を重ねたダニー。皮肉なことに父親と同じく酒に溺れ人生のドン底を這いずりまわっています。
真結族
本編に新たに登場する幽霊とはべつの恐怖の対象。元々は、”かがやき”をもった人間で回生することで長寿を得た種族。
“かがやき”をもつ子供をさらいその命気を食べることで延命します。子供は恐怖から吐き出される命気が純度が高いとし拷問され最後には殺されてしまいます。
キング作品によく登場する吸血鬼ですね。
吸精鬼と表現した方がいいかも。
彼らのライフサイクルが丁寧に描かれています。定住せずにキャンピングカーを連ねて国中を移動しながら生活。
キングの小説では、例えば吸血鬼がテーマだと本当に現代に吸血鬼が存在すればこうであるはずというリアリティが追求されて描かれます。
真結族は”超長寿”とちょっとした特殊能力を除けば人間と大差はなく、銃で撃てば殺せる存在です。
ローズ・ザ・ハット
この小説を読んでまず魅力を感じたのは、新しいキャラクター。真結族の女リーダー ローズ。
キャンピングカーのキャラバンを率いるのはシルクハットを被った(あり得ない角度で)長身の美女。
人間を下民と蔑む彼ら。回生前の名前を捨てお互いを通り名で呼び合っています。
チームのリーダーであり恋人でもある存在。真結族のイメージは、ヒッピー文化をイメージにもってきてるのはわかりやすい。
本文ではRV族と呼ばれ実際にアメリカにあるライフスタイル。
ローズはセクシャルなイメージが多く(真結族を語る上で欠かせない)描かれ魅力的です。映画でそのへんの描写も少しだけ期待してたのですが残念なことに完全にスポイルされていました。
これはただのスケベ根性に思われるかもしれませんが、シャイニングの237号室のシーン(今までみてきた映画で1番怖いシーン!)
でもそう。恐怖とエロスは密接に結びついているのはホラー好きには承知のこと。
ホラー小説、ホラー映画はかなり高度な娯楽なので苦手な人は観ないこと。そして好きな人は必ず帰ってくること。これは忘れないように。
アブラ
ダンに真結族の存在を伝える最強のシャイニングをもつ少女。現代のごく普通のティーンエイジャーといった感じ。スマホやタブレットを使う描写がよく出てきます。
この小説読みやすかったのは、シャイニングの続編ということとアブラの存在。
未熟な女の子と人生ドン底を味わった男の遠距離恋愛(文字通りの距離と年齢差)として読むこともできます。
ダンの自室の黒板に”Hello”とメッセージを送るアブラ。愛おしいです。
映画ではちょっと自分が想像していたよりお姉さんな感じでした。残念だったのはアブラの頭の中を探ろうとしたローズを騎乗した騎士のイメージで追い払うシーンがなかったこと。
アブラとダンが思念を遠隔に送る場面で世界が回転すると描写されています。映画ではわかりやすいビジュアルで表現されていますが
やはり小説の方がイメージが広がって強みになってます。
自分は水平方向に回転(カメラのパンみたいな動き)を想像していました。その回転の中心、それがオーバールックホテル。
幽霊が見えるということ
キューブリック監督の映像。美しくて怖い映画。原作と映画は異父兄弟。そんな風に思えばいいのかも。
キューブリックのシャイニングは本当に素晴らしい映画ですが原作とは別と割り切って見るべきでもあります。
幽霊が見えるということは、こうなんだと思わせるのはカメラですね。かなりキツ目の照明で照らされたセット。ダニーが三輪車でホテル内を走るシーン。
幾何学模様のカーペット。コロラドの自然。どのシーンも美しくどこか不気味。
映画ドクタースリープはキューブリック版のシャイニングの続編として描かれてています。このへんは製作者の苦悩が想像できます。
キューブリック版の続編とせすに原作に忠実にするほうがよかったと思うのですが色々あるんでしょうね。
見るべきシーンは沢山あります。ローズ役の女優さんは概ねイメージ通りかな。アンジェリーナ・ジョリーが個人的に推しでしたが。

先述の世界が回転するイメージも映画的でエンターテイメントとして良かったと思います。
アブラ役の子もいい表情でした。
シャイニング
シャイニングもドクタースリープも怖い話ですが家族の物語でもあります。
人生ドン底のダニーに手を差し伸べる人たちも家族です。ビリー(最高にいいヤツ)やキングズリー。猫のアジー。
真結族も仲間を思う点では家族といえます。
死してなおダンを見守るハローラン。この人の幼少期の話も凄まじい。憎悪や暴力の中人を正しく導くこともあるのが”かがやき”。
ドクタースリープではダンがアブラを導く側になります。人間を下民と蔑む殺人者集団との戦い。狡猾なローズに対し二人がとる行動に目が離せませんでした。
未読の方で興味がある方は、シャイニングから読むことをお勧めします。なぜならドクタースリープは、ジャック(ダンの父親 故人)の物語の続きだからです。
まとめ
REDRAM